大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2437号 判決

平和相互銀行

事実

控訴人(一審原告、敗訴)株式会社平和相互銀行は、本件手形が商業手形でなかつたら割引の依頼に応じなかつたとともに、本件手形の振出人として記載されているものが山下木材株式会社ではなくて山栄林業株式会社(山下木材の商号変更後の商号)であつたならば、たとえそれが商業手形であつても割引はしなかつたのである。従つて被控訴人(山下木材の専務取締役、山栄木材となつてからは代表取締役)の重大な過失による登記義務の懈怠と本件損害の発生との間には因果関係が存するとして控訴したが、被控訴人はこれを否認し、控訴人は銀行であるから金銭貸付については相当の注意義務があるにも拘らず、過失によつて偽造の注文書等により本件手形を商業手形と誤信したもので、たとえ山栄林業株式会社において本件手形上の債務を負担すべきであるとしても、被控訴人個人には手形上の責任はないと争つた。

理由

山下木材株式会社が商号を山栄林業株式会社と変更したことにつき被控訴人が代表取締役として所定期間内に右変更の登記をしなかつたことは、原判決も指摘するとおり正しく被控訴人の過失である(従つて適当の期間内に山下木材株式会社の取引銀行である大和銀行有楽町支店に商号変更の通知をしなかつたことも被控訴人の過失といえよう)。そうすると被控訴人が本件約束手形を作成するについて、振出人として新商号の山栄林業株式会社を用いずに旧商号の山下木材株式会社を用いたこともまた被控訴人の過失となさざるを得ない。ところで控訴人平和相互銀行は、本件手形が正当な商業手形であつてもそれが山栄林業株式会社の名称で振り出されていたものであれば、控訴銀行としては絶対にこれを割り引かなかつたと主張するけれども、控訴人の右主張を確認するに足る証拠はない。証拠によれば、山下木材株式会社はもと山下汽船株式会社の同族会社であつたが、商号を変更する前既にそのような関係は消滅しており、商号変更の前後によつて同会社の信用を左右するような会社財産上の変動はなかつたことを認めることができるから、控訴銀行が本件手形を割り引いたのはもつぱら訴外橋本らが納品書を偽造して本件手形を恰かも商業手形であるかのように作為したことによるものであつて、被控訴人が振出人の記載を山下木材株式会社としたことにたとえ過失があつても、これによつて控訴人に本件損害を生ぜしめたものと認めることはできない。

要するに被控訴人の故意または過失によつて控訴人が損害を蒙つたことを原因とする控訴人の請求は理由がないから、これを排斥した原判決は正当であるとして本件控訴を棄却した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例